保育士を巡る現場の問題点と解決への道

大勢の子供を見守る保育士の仕事は、現在色々な問題点が指摘されています。待機児童の問題が提起されて保育士についての議論が深まってから、その傾向は強まっていると言えるでしょう。ここでは、問題点の幾つかを取り上げて、解決のために何が必要かを考えていきます。
問題点1:保育士の給与
まず、保育士の給与の低さから見ていきましょう。各種調査やデータに表われているように、保育士の年収ベースは一般より低いのが実情です。
様々考えられる原因の一つに、残業代があります。
一般企業ならば、残業代は就業時間以降ならば発生します。
しかし幼稚園や保育園の場合、行事を控えた備品の製作などを家に持ち帰るケースがよくあり、この「持ち帰り残業」はいわゆるサービス残業で、常態化している園が多いのです。中には残業代の考え自体が無い園まであります。残業代がきちんと支払われていれば、保育士の給与はもう少し高くなる可能性があるでしょう。
残業時間や給与体系を公表している園が少しずつ増えているので、実際に働く保育士は、残業代が支払われているかどうか確認して就職先を決めるのも、ひとつの対応策になります。
問題点2:保護者の対応
保護者への対応に苦慮する保育士の問題もあります。この傾向は特に若い保育士に多く、自分より年齢と経験が上の保護者に対して、うまく対応出来ずに問題化してしまうのです。
保育園や幼稚園では、保護者からの苦情や要望を取り入れる努力をしているものの、時に些細な行き違いが解消されないまま、トラブルにまで発展してしまうケースが見られます。トラブル元の保護者を俗に「モンスターペアレント」と呼んだりしますが、一方的な見方さえしなければ常識外れな保護者は実際には多くありません。
保護者対応の問題はほとんどが現場で解決可能なもので、その時大切なのは苦情窓口の一本化と情報共有とされます。保護者向けの専門窓口があれば、トラブル未満の段階で情報を吸い上げられますし、その情報を職員全員で共有すれば再発防止に役立ちます。
保育士がバラバラに苦情を受け付けたり、当事者間の口伝えだけで解決したつもりになっていると、保護者との間に溝が生まれてしまい、問題化してしまうのです。保護者対応は保育士個人で行うよりも、園全体で解決していく姿勢が大切になります。
問題点3:保育士の人間関係
職場での人間関係に悩む保育士が少なくありません。保育現場特有の事情を考慮すべきでしょうが、その前に他の業種で行われているコミュニケーション対策が、保育の現場であまり採用されていない点を見ておきます。
国の施策で、一定数以上の社員を雇用している企業には、社員のメンタルケアが義務付けられています。一方で保育士の職場は基本的に職員数が少なく、メンタルケア対応をしていない園がほとんどです。
園は子供の健康管理上、常に医療機関と連携しているので、保育士の悩みにも応えられる対策を取れば、同僚や保護者とのコミュニケーション円滑化の手助けになります。すぐ行える対応ではないかもしれないものの、中長期的に他の業種と同じ環境を整えていくべきでしょう。
複数の園や施設を運営する団体ならば、定期的な勤務先のローテーションで職場人員の固定化を防げます。少人数で異動のない園とは違う対応が可能なので、人間関係に悩んでいる保育士に向いた働き先と言えるかも知れません。
問題点4:保育士は休みが取りづらい
保育士自身の育児休暇制度の導入を求める声や、休日出勤の多さを負担に感じる現場の声があります。
育児のサポートが仕事である保育士自身が育児支援を受けられないのは本末転倒ですし、自分の子供の行事を休んで休日出勤するママさん保育士までいる現状は、確かに問題でしょう。
これらは、いずれも人員不足が問題の根底にあります。保育士不足はメディアで声高に叫ばれており、保育士の増加や、資格を持っていなくても短期の講習を受けて保育現場で働けるスタッフの養成が提起されたりしています。
保育士の問題点を解決する方法
保育士不足の解決策は、実はシンプルです。
かつて保育士として働いていた経験者を現場に呼び戻せれば、相当の数にのぼるからです。女性の多い保育士は、結婚や出産、夫の転勤などをきっかけに退職し、そのまま職場復帰していない人がかなりの数になります。
あるアンケートでは、この女性たちの約半数がもう一度保育の現場に戻りたいと考えており、人手不足解消の大事な人的資源になり得るのです。
彼女たち潜在人員に保育現場が対応し、子育てが一段落した人やブランクはあるが意欲的な元保育士がカムバックしやすい職場環境を整えることが、保育士不足解消の有効策と言えます。
育児休暇や休日出勤だけにとどまらず、様々な問題が人手不足から起きていますから、この元保育士へのアプローチが、最優先に手を付けるべき方策かも知れません。
このように、保育現場の問題点からそこで働く保育士たちの環境を見てきました。個人で出来る対応もあれば、園が組織的に取り組むべき課題もあります。
それぞれの現場が解決に向けた努力に取り組んでいますから、子供たちの健やかな成長の為にも、保育業界全体をあげた丁寧な対応が求められています。